【書評】現役隊員おすすめ!途上国の問題がわかる本「ストーリーで学ぶ開発経済学」
開発学について、現実に近い形で理解できる本に出合ったので紹介します。この本を機に途上国の村落部が抱えている問題について興味を持つ人が増えると嬉しいです。
購入の経緯
青年海外協力隊としての活動も中期に差し掛かり、どこか行き詰まりを感じていました。これまでの自分の知識や経験をベースに活動しようとするも、どこか限界があり、壁に当たっているような。
そんなとき、開発経済のことを勉強すれば何かヒントがあるかも?と思って巡り合ったのがこの本です。Kindleで購入しました。
ストーリーで学ぶ開発経済学 -- 途上国の暮らしを考える (有斐閣ストゥディア)
- 作者: 黒崎卓,栗田匡相
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2016/03/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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(便宜上商品リンクを貼りますが、アフィリエイトではないので悪しからず)
本書のスタンス
「ストーリーで考える」とあるように、アスー国という架空の国で暮らす人々の生活を通じて開発経済学を学ぶというスタイルをとっています。開発学を初めて勉強する初学者の僕にとっても読み進めやすかったです。
ただし、内容が薄いなんて言うことは全くなく、開発学のモデルやモノの見方が、筆者の途上国での経験を踏まえて述べられています。
なので、アスー国が抱える問題設定がとてもリアルで「あー。あるある。」と思わされる場面ばかりでした。途上国の村落部にありがちな問題を題材にし、開発経済についての理解が深められる良書だと思います。
ひとつ残念だったのはアスー国の登場人物の名前が、パクチーさんとかマンゴーさんとか、野菜や果物名前だったのには少し安っぽさを感じてしまいました。「モハメッド」とか実在する名前で、良かったのでは。。内容が濃いだけに少し残念。
本書の構成
全部で9章から構成されています。
〈主な目次〉
プロローグ─ある途上国のお話
第1章 農業─伝統的制度に秘められた知恵
第2章 農村信用市場─多様化する農村経済とマイクロファイナンス
第3章 教育と健康─人づくりは国づくり
第4章 労働移動─バラ色の新天地?
第5章 経済成長と工業化─グローバル化した世界
第6章 技術移転─学びの道も一歩から
第7章 開発金融─おらが村とグローバル金融システムのつながり
第8章 開発援助─がんばれニッポン
第9章 持続可能な開発─環境と開発の対立を超えて
各章は、ストーリー⇒問題点の提起(課題の抽出と分析フレーム)⇒解決に向けて
の3段階で構成されています。農業から教育、金融など幅広い分野の問題点と解決についての考えに触れることができました。
図解やデータも多用されていて、視覚的にもわかりやすかったです。また、発行が2016年ということもあり、最新の研究結果も用いられているのは、開発学の古典的な名著よりも優れている点ではないかと思います。
印象に残った部分
印象に残ったのは、農家が農業の新技術を採択しない理由について、農家を教育のない愚かな生産者とみなすのではなく、ハウスホールド・モデルという手法を用い、合理的行動として説明していた部分です。
仮に、新技術に投資、採択し、平年で所得が倍増したとしても、不作年で大幅な赤字になるなら、農家はリスクを回避し、採択しないのが合理的ということです。ここで問題なのは補てんや埋め合わせができる機能や、不作に備えての積み立てがないことだと論じています。つまり、途上国農業の問題点を農業だけに終始せず、信用アクセス(困ったときに借金ができる)を含めて議論している点は興味深かったです。
日ごろから保守的なセネガル農家を見ている私にとっても、この考えは腑に落ちるものでした。ボランティアの立場としてできることは、頑なに新技術を勧めるのではなく、同時に穀物の積み立ての制度設計を進めることなのかもしれないと感じました。
もっとも、お金を借りることも途上国の人々にとって容易ではない点についても別の項できっちりと論じられています。金融機関へのアクセスや識字率、高い利子率などが障壁となり、融資を受けるのは簡単ではないのは、セネガルの村落部でも同様です。
この部分には最新の研究でも答えは出ていないとしながらも、してはいけない施策が提示されており、示唆に富む内容となっていました。
まとめ
先ほども書いたのですが、とにかく設定が現実に即しています。活動が中期に差し掛かり、セネガルの農村部の現状を理解できた今だからこそ、実感を伴って読み進めることができました。日ごろ、肌感覚で理解していたことが学問的に裏付けられていくというのはとても面白かったです。また、活動のヒントになるような指針も得ることができました。
現役の隊員はもちろん、派遣前の隊員や、途上国の問題に興味のある人にもおすすめできる一冊です。「途上国ではこんな問題があるんだ。」と、僕らが日ごろ対峙している問題を身近に感じてもらえるはず。そして、途上国のことについて考える人がひとりでも増えたらいいなと思い、本書を紹介しました。